遊覧飛行が創る空の新しい価値|「移動」から「楽しむ」へ(前編)

コロナウイルスによる利用者数減少により、航空会社は厳しい状況に立たされています。
そのような状況下で、各社が積極的に実施している「遊覧飛行」。
遊覧飛行こそが、航空会社の新しい起爆剤になるのではないかと考えています。

なぜ遊覧飛行が実施されているのか?
飛行機は継続的に飛ばないと逆に、コストがかかるものだからです。
世界で運行中の飛行機の約40%がリース機と言われており、すべての機材を自社で保有しているわけではなく、リースしている機材もあります。
保有機材の場合は、売上によってもとを取れるように運行しないといけないですし、
リース機材の場合も、運行の有無に限らず、リース費用が発生してしまいます。
減便が続く今は、減便の影響で機材に関わるコストが航空会社に重くのしかかっている状況です。
また飛行しない期間が90日を超えると、通常よりも整備作業の項目が増え、余計な費用がかさむようです。
2つをはじめとする理由によって、苦しい状況を少しでも和らげるため、遊覧飛行を実施していると思われます。

遊覧飛行は初めての実施ではなく、これまでも各社で毎年1月1日に「日の出(元旦)フライト」を行っています。
異例の取り組みとして、ANAは8月に「ANA FLYING HONU チャーターフライト」、JALは9月に「空たび 星空フライト」をそれぞれ実施しました。
海外ではカンタス航空がエアーズロックやグレートバリアリーフなどオーストラリアの観光地を低空飛行で眺めることができる約7時間にわたるフライトを実施しました。
各社ともに現在までに複数回実施し、今後も予定されていています。

では今回のテーマである「遊覧飛行が創る空の新しい価値」だとなぜ考えるのかをここから話していきたいと思います。

結論から言うと、利用者目線では遊覧飛行によって、飛行機を利用することが「手段から目的」へと変化するからです。
それはどういうことなのか?
これまで飛行機に乗る機会といえば旅行や出張など、ある地点からある地点へ、そこへ行くための「移動手段」でしかありませんでした。
そのためコロナウイルスのような影響により、移動が制限される状況では、飛行機を利用して移動する機会が少なくなる、または全くなくなります。
ですが遊覧飛行ではどこにも移動しません。出発した空港に戻ってくるだけです。
利用者にとっては遊覧飛行で「飛行機に乗って空を飛ぶことが目的」になり、新しい楽しみ方が増えることになります。

それは航空会社にとっても良いチャンスです。
現在のように利用者数が減少している状況では、運行コストをどれだけ下げるかが、収益を確保する上では、重要なポイントになります。
そのためLCCのように効率性(本当に必要なもの以外をカット)を追求したモデルが、業界内でフルサービスキャリア(FSC)と比較して、存在感が強まってきています。

LCCは移動としての役割では究極なモデルです。
飲食でいえば、マクドナルドや吉野家のように「安さ」を売りにして、多くの人にいっぱい利用してもらうような感じです。
LCCによって航空運賃の価格破壊が進み、多くの人が飛行機を使って国内や海外に旅行できるようになりました。

とても喜ばしいことである一方、航空会社にとっては効率化を追求するあまり、
他社との差別化を図ることができなくなる可能性があります。
飛行機のロゴやカラーが変わるだけで、サービス内容はどこも似てしまう。
それ結果としてブランドを意識することがなくなり、価格だけで利用する航空会社を選ぶようになります。(コモディティ化)
国内のANAやJALなどの大手にとっては、現状もかなり苦しいですが、今後も業界内での立ち位置が危うくなることは間違いないです。

そのような状況を打開するためにも「空を飛ぶ楽しさ、ワクワクさ」フライトそのものを見つめ直し、利用者へ積極的にアピールしていくことが航空会社には必要だと思います。
「移動」と「遊覧飛行によって楽しませる(エンタメ)」の2軸で事業展開することが、業界内ないし、その他の商業界に対しての脅威となるはずです。

今回「遊覧飛行が創る空の新しい価値|「移動」から「楽しむ」へ」というテーマでお話してきました。
次回も続きとして、これまでの事例を用いながら、遊覧飛行による「空の新しい価値」について考えたいと思います。